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コラム

夏の書道 — 暑中見舞いに添える、夏に書きたい言葉と漢字

2026-05-20

夏の書道 — 暑中見舞いに添える、夏に書きたい言葉と漢字

梅雨が明け、じりじりとした太陽の光が照りつける季節。日本には、この暑い盛りに大切な人へ近況を伝える「暑中見舞い」という文化があります。

印刷されたハガキも便利ですが、筆で一文字一文字を書いた暑中見舞いは、受け取った人の心にまったく異なる温度で届きます。手書きの文字には、どんなデザインも敵わない「その人らしさ」があるからです。

今回は、夏の書道の楽しみ方と、暑中見舞いに使える言葉・漢字を書道家の視点からご紹介します。

暑中見舞いと残暑見舞い、何が違う?

まず基本から整理しておきましょう。

  • 暑中見舞い:梅雨明け〜立秋(8月7日頃)までに出すもの
  • 残暑見舞い:立秋を過ぎてから8月末頃までに出すもの

立秋以降は暦の上では「秋」になるため、「暑中」ではなく「残暑」と表現します。書道でハガキを書くなら、この時期の使い分けも意識すると、受け取った相手に「粋だな」と思ってもらえます。

夏に書きたい漢字・言葉

書道において、言葉の選択は作品の半分以上を決めると言っても過言ではありません。夏の雰囲気を纏った漢字と言葉を選んでみましょう。

一文字で夏を表す漢字

涼(りょう) 暑さの中にひとときの涼しさを感じさせる字。はらいの流れが美しく、草書で書くと一層涼やかな印象になります。「涼風」「清涼」など、組み合わせても映えます。

夏(か・なつ) シンプルながら力強い。楷書でどっしりと書いても、行書で流れるように書いても、存在感があります。

蒼(そう) 青よりも深みのある、夏の空や海の色。「蒼空」「蒼海」と組み合わせると、広がりのある夏の景色を文字で表現できます。

炎(えん) 暑さを正面から受け止める字。書道で書く際、下の「火」の部分をどう表現するかで個性が出ます。

光(こう) 真夏の光。シンプルな造形ですが、筆の強弱ひとつで表情が大きく変わる奥深い字です。

暑中見舞いに使える言葉・フレーズ

言葉 読み 意味・用途
盛夏 せいか 夏の盛り。暑中見舞いの書き出しにも
炎暑 えんしょ 炎のように暑い夏の気候
向暑 こうしょ 暑さに向かう季節(梅雨明け前後)
清涼 せいりょう 涼しく清らかなこと。相手への願いとして
夏至 げし 一年で最も日が長い日。季語にもなる
海風 うみかぜ 夏らしさを感じさせるさわやかな言葉
入道雲 にゅうどうぐも 夏の積乱雲。俳句の季語にもなる

暑中見舞いに筆で書くとき、ここを意識する

1. 墨の濃さを少し薄めにする

夏は墨が乾くのが早く、半紙やハガキに書くときに少しかすれやすくなります。普段より墨をやや薄めに溶いて、流れるように書くことで、視覚的な「涼しさ」も演出できます。

2. 余白を多めにとる

文字を詰め込まず、空間に余裕を持たせることで、紙の白が「涼風」のように感じられます。書道の美学として「余白(よはく)」は非常に重要な概念ですが、夏の書では特にこれが活きてきます。

3. 行書・草書を取り入れる

楷書は正確で美しいですが、夏の暑中見舞いには少し流れのある行書が映えます。線がリズミカルに動き、ハガキ全体に躍動感が生まれます。草書で書ければ、受け取った人はその自由さに夏の風を感じるかもしれません。

4. 硯(すずり)の水を冷やしておく

少しマニアックなコツですが、夏に書道をするとき、硯に注ぐ水を冷水にすると墨のすれる感覚が変わります。また、集中力が続きやすくなるという書道家もいます。気分の問題かもしれませんが、五感で夏の書を楽しむ一つの方法です。

文例:筆で書く暑中見舞いの基本構成

暑中見舞いには、おおまかに以下の構成があります。

1. 挨拶の言葉
   「暑中お見舞い申し上げます」

2. 相手の健康を気遣う一言
   「猛暑の折、いかがお過ごしでしょうか」

3. 自分の近況報告
   「こちらはおかげさまで元気に過ごしております」

4. 相手の健康を祈る言葉
   「どうぞご自愛くださいませ」

5. 日付
   「盛夏」または「令和○年 盛夏」

この全文を筆で書く必要はありません。印刷したハガキに、挨拶の言葉や相手の名前だけ筆で書き添えるだけでも、受け取る側の印象はがらりと変わります。

書道で夏を楽しむ、もう一つの方法

暑中見舞いだけでなく、夏は「団扇(うちわ)」に書を書く楽しみ方もあります。白い団扇に「涼」や「風」の一文字を書いて、部屋に飾る。実用とアートの間にある、夏ならではの書道の楽しみ方です。

また、夏休みを利用して写経(shakyo)に挑戦するのもおすすめ。般若心経の262文字を静かに書き写す時間は、暑さを忘れさせてくれる集中の時間になります。


書道は季節と深く結びついています。春の書き初め、夏の暑中見舞い、秋の和紙に映る紅葉の色、冬の年賀状——日本の四季は、筆と墨を持つ理由を一年中与えてくれます。

今年の夏は、一枚のハガキに筆を走らせてみませんか。スマートフォンのメッセージでは届かない温度が、きっと相手の元に届くはずです。

執筆・監修

夢香 MUKYO

東京を拠点に活動する書道家。伝統的な書道から現代アートまで幅広く手がけ、TikTokで66K+のフォロワーに書道の魅力を発信中。