夢香

コラム

筆の持ち方と線——握りが変わると、線が変わる

2026-10-10

筆の持ち方に関する規則は多い。単鉤法、双鉤法、軸を立てる、親指と人差し指で輪を作る——師匠ごとに微妙に言い方が違い、同じ師匠でも「硬い字を書くときは」「草書では」と場面によって指示が変わる。

長い間、持ち方は「正しい形に体を合わせるもの」だと思っていた。しかし稽古を重ねるうちに、もう少し別のことに気がついた。形よりも先に、力の抜け具合が線に出る、ということだ。

力んで持つと穂先が広がる

十代のころ、大きな作品を書くときほど筆を強く握る癖があった。半切(35×136cm)に向かうと、腕の動きを制御しなければという感覚が働き、無意識に筆の軸を握り締めていた。その結果、羊毛筆の穂先が想定より開いてしまい、入筆の瞬間に墨がにじんで太い線になる。かすれを出そうと思っても、力が穂先まで伝わって紙を押し込むため、かすれが出ない。

何枚書いても解決しなかった問題が、ある日先生に「筆を持っていると思わないで」と言われて変わった。軸に触れているだけという感覚で持つと、穂先が自分の重みで紙に乗り始めた。力まない握りは、筆本来のしなりを活かす。穂先は自然に広がることも縮むこともでき、線の表情が戻ってきた。

「添える」感覚と傾きの関係

今、私が意識しているのは「添える」という感覚だ。軸を持つのではなく、指が軸の周りに集まっている状態。親指と中指が対になって軸を支え、人差し指がその上に乗る。薬指と小指は添えるだけで、力を使わない。

筆の傾きも線に直接影響する。軸を紙に対して垂直に近い角度(鉛直から10〜15度)で保つと、穂先の先端だけが紙に触れ、細い線が引きやすい。傾けるにしたがって穂先の腹が紙に触れる面積が増え、線に太さと存在感が出る。草書で流れるような連続した動きを書くとき、私は意図的に軸を少し傾ける。傾くことで穂先が紙の上を滑るように動くからだ。一方、楷書の止め・はね・はらいは穂先の先端でコントロールしたいので、軸をなるべく立てて持つ。

この切り替えは頭で考えるものではなく、臨書の稽古の中で身体に入る。古典の字を繰り返し写すうち、字の形が変わる理由が筆の傾きにあることを手が覚える。

力みは筆圧と混同しやすい

筆を力んで持つことと、意図的に筆圧をかけることは、感触が似ているが結果がまったく違う。力んで握ると腕全体が固まり、穂先への力の伝達が不均一になる。一方、軽く持ちながら腕の重みを穂先に送ると、同じ太さの線でも安定感が出る。

力みに気づく方法として、私は呼吸を確認する習慣を持っている。呼吸が止まっているときは、たいていグリップも固まっている。一度深く吐いて、指の力を抜いて持ち直す——それだけで次の線が変わることが多い。

筆の持ち方は、入門のころに習って正解を確定するものではない。書く字の大きさ、紙の種類、筆の硬軟によって、その都度少しずつ調整する身体の設定だ。腕と手と穂先が一本につながっていると感じる状態を、書くたびに探している。

夢

執筆・監修

夢香 MUKYO

東京を拠点に活動する書家。古典に立脚した書から現代的な書まで手がけ、書の魅力を世界へ発信する。